大きいにゃんこよりふかふかだった毛はぺったり体に張り付いて一回り小さく見えた。 四肢がつっぱって剝製みたいにかちかちで、生前のしなやかさは欠片もなかった。 表情の抜けた顔は険しさが目立つただの獣の顔だった。 冬の水は冷たかったはずで、後ろ足の内側には鳥肌が立っていた。 もがいただろうし、声の限りに泣いたはずだ。すくい上げてやるべき人間は一人も家にいなかった。 母猫は浴室に子猫がいたことを認識していた。後を追って飛び込まなかった母猫はあきれるほど賢い。 階段から落ちたり、浴槽の縁に飛び乗ろうとして足を滑らせたり、失敗を重ねながらこれまで生きてきた長さは伊達じゃない。 小さいのは、払うべき注意や警戒心を身につける前に取り返しの付かない失敗に遭ってしまった。 帰宅したときに、大きい方のにゃんこがやけにじゃれついてくるなぁと思っていた。 えさが空っぽの時にも熱心にすり寄ってくるのだけど、朝から減らずに残っているのを既に確認していた。二匹もいて、これはおかしなことだった。 朝起きたときと帰宅時には一番にぬこの居場所を把握することにしている。というか、目が探してしまうのだ。 母猫の相手をしながらクッションの上、一階のカーテンの裏、食卓の椅子の座布団の上にちびにゃんこがいないのを確認した。 あとの心当たりは二階の部屋のカーテンの裏か布団の中だが、いなかった。いつもとは違う場所に潜り込んでいるのだろう。 こういうときは家の中を、にゃんこがいままで落ち着いていたことのない場所も含めて端から覗いていく。 浴室を覗くときはいつも一抹の不安を感じていた。でも、今日はいなかった、と胸を撫で下ろすだけで満足して、なんの予防も注意もしていなかった。 今朝は浴槽のふたが全開で浴室のドアが半開きだったらしい。水位は真ん中。気付かずに、家を出た。